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大阪地方裁判所 昭和25年(わ)3273号 判決

本籍

大阪市東淀川区三津屋北通四丁目九番地

住居

尼崎市 森 二百四十番地

会社重役

田村庄太郎

明治二十二年十一月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について当裁判所は検事某、某出席の上審理を終り次の通り判決する。

主文

被告人を懲役四月に処する。

但し、本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

理由

被告人は大阪市東淀川区三津屋北通四丁目九番地に工場を有し試薬工業薬品の製造をしていたものであるが、昭和二十四年中に於て金二百二十万千二百三十七円の所得(此の所得税額百四十七万二千九百二十二円三十銭)であつたのに所得税を逋脱する意図の下に表勘定と裏勘定との二重勘定を設けて所得の一部を裏勘定に秘匿した上、昭和二十五年二月三日附で所轄淀川税務署に対して右表勘定のみによつて昭和二十四年中の所得が金三十八万八千四百六十五円(此の所得税額十六万五千七百七十九円)である旨所得を過少に記載した虚偽の確定申告書を提出する等の不正の行為によつて昭和二十四年度の所得税百三十万七千百四十三円三十銭を逋脱したものである。

証拠を検討するに右事実は

一、大阪国税局収税官吏大蔵事務官萩野誠造岸田貢作成の告発書

一、大阪府淀川税務署長大蔵事務官丹羽彦次郎作成に係る昭和二十五年二月三日附被告人提出の確定申告書並に添付書類(在庫表損益計算書)の証明書

一、右丹羽彦次郎作成に係る被告人の昭和二十四年度分所得調査証明書

一、大阪国税局収税官吏大蔵事務官萩野誠造作成の脱税額計算書

一、右萩野誠造作成に係る臨検捜索顛末書

一、大阪国税局収税官吏大蔵事務官岸田貢作成の差押顛末書並に添付の差押目録、保管証一、大阪国税局収税官吏大蔵事務官坂谷武作成の臨検捜索顛末書

一、右坂谷武作成の差押顛末書並添付の差押目録

一、大阪国税局収税官吏国税査察官萩野誠造作成の領置顛末書

一、押収に係る金銭出納簿(大阪銀行当座関係)一冊(証第一号)普通預金通帳(富士銀行のもの)一冊(証第二号)在庫表四綴(証第三乃至第六号)金銭出納簿一冊(証第七、八号)売原簿一冊(証第九号)買原簿二冊(証第一〇第一五号)在庫表一綴(証第一一号)損益計算書一綴(証第一二号)納品伝票十冊(証第十三号)経費明細簿一冊(証第十四号)在庫帳一冊(証第一六号)の存在

一、大阪国税局収税官吏国税査察官岸田貢作成の調査顛末書

一、前掲萩野誠造作成に係る収支計算書 三通

一、貸借対照表(附属書類添付) 二通

一、売上勘定関係計算書 一綴

一、仕入勘定関係計算書 一綴

一、経費勘定関係計算表 一綴

一、在庫商品関係計算表 一綴

一、田村豊に対する大阪国税局収税官吏国税査察官作成の第一、二回質問顛末書及検察官作成の供述調書並同人提出の供述書

一、田村正に対する大阪国税局収税官吏国税査察官作成の質問顛末書及検察官作成の供述調書並同人提出の供述書

一、被告人に対する検事作成の供述調書及大阪国税局収税官吏国税査察官作成の第一、二回質問顛末書

を綜合して之を認定し得るから其の証明十分である。

弁護人は本件所得は被告人が多年に亘る化学薬品製造に際して生じた廃品を処理して得たものであり、該所得は営業所得に属しないと確信していたものであつて脱税の犯意がなかつたものであると弁疏するから考察すると、斯ような所得も亦所得税法に所謂所得に包含し課税標準の対象となるものと解されるところ、被告人が之を所得税法上の所得に該当しないと信じたことは、結局法律の錯誤に因つて所得税法を知らなかつたことに帰し犯意を阻却しないものと断じなければならないから本件弁疏は採用の限りではない

法律に照すと

被告人の判示所為は所得税法第六十九条第一項に該当するが同法は昭和二十五年三月三十一日法律第七十一号により改正されたが同法律附則第二十一項により結局改正前の同法条の適用を受けるので所定刑中懲役刑を選択し其の所定刑期範囲内に於て被告人を懲役四月に処すべきところ、被告人は大正七年以来薬品製造に従事し勤勉実直よく製薬業界に理事長として貢献して来たものであり、戦後国内に於ける製薬原材料の不足を来たすや廃品の処理をなして之が不足の緩和に努めたものでありその因つて得た所得は独り自己の私腹に匿うことなく従業員の厚生に、腐朽した工場の再建に用うる意図の下に本件脱税がなされたものであること、本件犯行の検挙にあうや被告人は衷心前非を悔い只管謹愼し改悛の情顕著なるものがあり、本件捜査に際しては率先これに協力して捜査を容易ならしめたこと及び万難を排して昭和二十五年十二月二日遂に逋脱税額の全部を完納したものである等諸般の情状に鑑み被告人に対しては右刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法第二十五条に則り本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予すべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

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